自動車用のリチウムイオン電池をめぐる競争が激しくなってきた。仕掛けてきたのは日産自動車である。この6月、2012年までに世界5拠点で年間の生産能力を電気自動車(EV)50万台分まで引き上げていく計画を明らかにした。
日産は、いよいよ今年12月から登録車ベースの電気自動車「リーフ」を、日米と欧州の一部で販売を始める。「ゼロエミッションカーで世界のリーダーになる」(カルロス・ゴーン社長)ことを目指す同社は、電気自動車だけでなくリチウムイオン電池の製造にも乗り出したのはすでに知られているところだ。
同社は形状がレトルトカレーに似たラミネート型電池をNECと共同開発した。そしてNECとの合弁会社、オートモーティブエナジーサプライ(AESC、神奈川県座間市)を設立し、リチウムイオン電池を生産する。
エネルギー密度が高いリチウムイオン電池は、ハイブリッド車や電気自動車の普及のカギを握っている。CO2削減や電動走行の航続距離などの車両性能は二次電池の性能に大きく依存する。リチウムイオン電池を制する者が電動車両を制すると言っていい。
日産は海外でも大規模な電池生産を計画している。米国で20万台分、英国で6万台分、フランスで10万台分、ポルトガルで5万台分の工場をそれぞれ立ち上げ、いずれも2012年に生産を開始する。座間を合わせると、2012年時点で電池の生産能力は世界で車両50万台分に達する。
現在、自動車用リチウムイオン電池でシェアトップの座にあるのは三洋電機。日産・NECがラミネート型であるのに対して、同社が展開しているのは角型電池である。こちらもこの7月に、加西事業所(兵庫県加西市)内に新工場を立ち上げるなど、民生用と併せて自動車用も増強していく。自動車用で2020年度には年間400万台分を生産し、世界シェアの40%確保を目標に掲げている。
日産・NECグループと三洋電機の両陣営による本格量産開始は、単なるシェア争いにとどまらず、ラミネート型vs角型という電池の世界標準獲得に向けた覇権争いに発展する可能性が高い。世界標準を獲得した技術が、その後の市場で圧倒的な優位に立つのは、これまでの様々な事例が証明している。
すでにグループのルノーが電気自動車を4車種、商品化することを発表しており、日産・ルノーグループと4月に提携した独ダイムラーは、両社と共同開発した電動車両を2013年以降に投入するといわれる。日産の電池がルノーはもちろんダイムラーにも供給されるのはほぼ間違いないが、“余裕分”の販売には、そのほかの自動車メーカーにどれだけ供給できるかが重要な要素となる。
日産・NEC連合のラミネート型リチウムイオン電池は、マンガン材料を正極に使っている。もともとは、マンガン系の先発メーカーであるNECが原型を開発した。セル外装のラミネートチューブは樹脂製で、アルミや鉄の缶を使った角型や円筒型の缶タイプと比べ、軽くて薄い。形状的に車両設計の自由度を広げられ、放熱性能に優れる。
また、ラミネート型は正極、セパレーター、負極を積層して電解液を封入した単純な構造であるため、角型のように電極を巻き上げて封入する必要はなく、セル製造のコストを抑えられる特徴がある。
一方の三洋電機は、自動車用二次電池では競合関係にあったパナソニックのグループに入った。
両社の役割分担については、パソコンやデジカメなどの電子機器用はパナソニックが、自動車用は三洋電機がそれぞれ主体になると見られる。昨年末、トヨタ自動車がリース販売を始めた「プリウスPHV(プラグインハイブリッド)」は、同社で初めてのリチウムイオン電池搭載車であった。このときはパナソニック製電池が搭載されたが、市販を始める2011年には三洋電機製の角型電池に切り替えていくと見られている。
その際、三洋電機はマンガン系ではなく、現在開発中のニッケル・コバルト・マンガンの3成分系を正極材に使ったリチウムイオン電池を、トヨタに供給する可能性が高い。3成分系は、高容量、出力・回生、低温特性や耐久性に優れているのが特徴だ。
また、三洋電機は2008年から独フォルクスワーゲン(VW)と次世代リチウムイオン電池の共同開発に取り組んでいるが、VWと包括提携するスズキは独自開発した「スイフトPHV」に三洋電機の角型リチウムイオン電池を採用した。
整理すると、パナソニック・三洋電機グループは、VW・スズキ連合、トヨタ、場合によってはホンダとも陣営を築く可能性がある。さらに、ニッケル水素電池の取引関係を含めれば、米フォードやフランスPSA(プジョー・シトロエン)ともつながりがある。
対する日産・NECの供給先としては、日産、ルノー、ダイムラー、昨年から供給している富士重工業というのが現在、目に見えている勢力図だ。
中国ではBYDが、自社製のオリビン酸鉄リチウムイオン電池で電気自動車を展開していく。BYDは中国の電気自動車メーカーとして日本では知られるようになったが、もともとは世界的に有力な電池メーカーである。オリビン酸鉄系は容量は小さいものの、急速充電耐性が高く、何よりコストが安い。世界市場での競争力は侮れない。
このほか、GSユアサは三菱自動車およびホンダとそれぞれ合弁を持っているほか、韓国のサムソンSDIは独ボッシュと組んで独BMWなどに、日立製作所グループは米ゼネラル・モーターズに供給していく、といった動きが始まっている。
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